選考委員
世の中には、自分を表現する方法がたくさんあります。歌、絵画、料理、ほかにもいろいろあります。そのなかのひとつに文章があります。
エッセイや小説などですが、それらは数多ある言葉の繋がりです。
たくさんの言葉のなかから、自分の気持ちを一番表せるものを選んでください。喜び、悲しみ、辛さ、楽しさを綴ってください。
同じ景色を見ても、美しいと思う人がいれば、もの悲しいと思う人もいます。同じ歌を聞いても、楽しいと感じる人もいるし、淋しいと感じる人もいます。あなたはなにをどのように感じてもいいのです。大人も子供も、男の人も女の人も、日本の人も外国の人も、誰もが気持ちは自由です。
岩手にどんな想いがありますか。好きな土地ですか。楽しい思い出がありますか。辛い思い出がありますか。
あなたはなにを伝えたいですか。あなたの心を読ませてください。あなたの気持ちを、全力で受け止めます。
ゆづき・ゆうこ
1968年釜石市生まれ。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、13年「検事の本懐」で第15回大藪春彦賞、16年「孤狼の血」で第69回日本推理作家協会賞受賞。18年2月~19年1月、岩手日報紙上で「暴虎の牙」連載。著書に「盤上の向日葵」「ミカエルの鼓動」など。山形県在住。
あまり考えすぎず、とにかく書いてみてください。書き手の思い入れがきゅうくつで、小説が逃げてしまう場合があるからです。そうして、気の向くままに書き進めたあとでは、それまでの道筋をとことんまで検討し、そこから再出発する。この思考の積み重ねをつうじて道がひらけたり、ときには四十枚あった原稿が四枚にまで減ったりと、いろいろなことが起きるわけです。大変な道のりですが、書き手の気骨というか本気度のほどを、小説のほうでも見ているはずです。
型破りなものも、型にはまったものも、熱いものでも冷たいものでも、どんなものでも飲みこんでしまう、小説というのは途方もなく大きな器のようなものでもあります。肝心なのは、そこに「音」が鳴っているかどうかということで、おそらくはすべての書き手に固有のその「音」を、読み手が受けとめることで初めて、ひとつの小説が誕生したということにもなるのかもしれません。
聞いたことのない数多くの「音」との出会いを心待ちにしています。
ぬまた・しんすけ
1978年北海道小樽市生まれ。福岡市で育ち、西南学院大卒。盛岡市に住んでいた2017年、デビュー作「影裏」で第122回文学界新人賞、第157回芥川賞を受賞。18年4月~19年3月、岩手日報紙上で「鞭独楽日記」連載。近刊に「幻日/木山の話」。仙台市在住。